業績回復ストーリーを描けない SIer の悪あがき

ここ数年来の SIer の冴えなさっぷりは異常です。

主要各社の決算も出て株主総会も終えたところで、今年も例によって低迷する SI 業界に一言もの申していきたいと思います。昨年は、「SIer が業績悪化しているのに何も変わらない」ということで、思考停止した SIer に言及しました。既存ソリューションをクラウドという新出用語でラッピングしたところで、売上拡大するわけないんですが、各社そろいもそろってクラウド押しだったのが悪印象でした。

直近決算を読み解く

上場大手 SIer 各社の直近の状況を見てみます。アレが入ってないとか、コレが入ってないとかいうのは無粋ですので、そこのところ、ひとつよろしくお願いします。

企業名 売上高 前年比 営業利益 前年比 来期予測 今年比
NTTデータ 1,161,962 101.7% 78,306 95.9% 1,200,000 103.3%
野村総合研究所 326,328 96.4% 38,426 95.9% 330,000 101.1%
伊藤忠テクノソリューションズ 283,068 97.5% 21,316 98.8% 280,000 98.9%
日本ユニシス 252,989 93.3% 6,527 91.9% 255,000 100.8%
CSKホールディングス 140,387 82.8% 7,005 167.7% 142,000 101.1%
住商情報システム 132,840 104.3% 7,076 110.2% 134,000 100.9%
新日鉄ソリューション 159,697 105.0% 11,076 102.7% 160,000 100.2%
富士ソフト 134,745 95.1% 3,793 115.2% 134,000 100.6%
日本システムディベロップメント 33,334 95.4% 3,582 84.3% 36,000 108.0%
SRAホールディングス 33,164 97.4% 2,238 112.1% 33,500 101.0%

2010年度決算に比べると、売上高や営業利益が伸長している企業がポロポロと見えるのが特徴です。トレンドとして、リーマンショック以後の不況については、前年度で底を打った感が出ているように見えます。ただ、FSI や SRA は実は前年度に営業利益率が半減していたりするので、そこから10ポイントちょっと改善したからといって、V字回復ということではありません。むしろ大きく伸ばしているところがなく、減収減益で着地している企業も多いため、依然として SI 業界全体に停滞感が漂っていると見るのが正しいでしょう。

昨年度下半期あたりから、ようやく企業の IT 投資意欲も復活してきたと言われていましたが、そこに来ての東日本大震災。実際に震災そのもので実害を受けたところは無く、各社ともに震災影響は不透明だがそこまで大きくないという見方をしているものの、プロジェクトの延期や案件の縮小などといった具体的な話もすでに聞こえており、各社読み切れていないというのが実情ではないかと推測しています。

ちなみに、増収増益を果たしている SCS と NSSOL については、親会社や楽天などのクライアントに恵まれたということもありますが、製造業での負けに対して、何とかプロジェクト生産性向上施策や販管費抑制で反発した結果であって、やはり市場環境がプラスに向いて利益確保できたということではないようです。この2社とも、11年度に継続して成長できるかは不透明です。NSSOL など、親会社の住友金属との統合案件がプロジェクト化されなかった場合、厳しい決算を迎える可能性があります。

SIer の悪あがき

そのような厳しい環境下にあって、一部すでに成長を諦めてしまっている SIer もいるものの、多くが業績予想として数パーセントの成長を見込んでいます。

データのように「前年度の目標と変わってねーじゃねーか」とか、「そんなのマシで NSD や SRA なんかは前年度の業績予測のだいぶ下を来期予想に置いていて、ついに現実を悟ってしまったか」とかいう話があるものの、今期決算より上向けるために各社尽力していくということは変わりません。

では、どうやって業績を回復させるというのでしょう。

個社別に多少の色の違いはありますが、前年度から継続されるクラウドや IFRS 関連での売上拡大とコスト削減施策に加えて、「BCP」と「グローバル化」が今年度のキーワードとして強調されたように感じられました。

既存のソリューションを、震災を機にリパッケージして需要喚起する SIer 根性には、惚れ惚れします。今回の件はさすがに、各社とも現実問題として考えねばならないことだけに、実際その提案に乗ってしまうところが少なくなかったのでしょう。DR対策や防災需要、グリーンIT、スマートグリッドなど、震災や原発に関連したサービス提供で、震災で低下したIT投資分も挽回可能というのが SIer の見方になっています。

国内 SI 市場の飽和に対して、不採算プロジェクトを減らすことで、なんとか利益を出し続けようという、後ろ向きな努力に比べると、震災に端を発する需要へのサービス供給というのは筋が良いように見えます。個人的には、震災による需要増加でカバーできる投資減少分は限定的だと思っているので、これで伸びるとは思えませんが。まあ、悪あがきだと思います。

業績回復の鍵を握るのは、グローバル化になるでしょう。

SIer はグローバル化するのか?

SIer が自らソリューションを創造して国内の新規マーケットを開拓できない以上、彼らが海外指向を持つのは当然の流れです。国内市場の飽和と、親会社やクライアント企業の海外進出という2つの理由から、国外で悪あがきをできないか模索するわけです。

しかしながら、現状で私が見ている限り SIer のグローバル化というのは、次の2点を指しているようです。

・親会社の海外進出に係るシステム構築
・クライアント日系企業の現地子会社へのシステム適応

グローバル化というと新興国の現地企業向けのソリューションを、ローカライズしながら提供したりすることかと思いきや、そういうのはインドや中国とのコスト競争に適わないので、既存のクライアントソースを最大限に活躍していくということをもって、グローバル化と言っているようです。アホか。取引は国際化しているけれども、それはグローバル化とは言わないでしょう。

これまで国内で蓄積してきた高度なノウハウを、新興国マーケットに適するようにアジャストさせて、ひとつひとつソリューションを組み上げていけるかどうか。新興国とのコスト競争に巻き込まれず、真に日本の SIer がグローバル化するためには、このような視点が欠かせないでしょう。

結局、言いたかったこと

SIer がソリューション創造企業として本質的に変化しない限り、国内だろうが海外だろうが、長期的な業績回復を遂げることは難しいのではないでしょうか。自社の強みを活かしつつ、各国・各地域に横たわる課題を解決することのできるラインを構築しなければならないのではないでしょうか。

事業継続性や単なる国際化としてのグローバル化というのは、そのような視点を持てず長期の業績回復ストーリーを描けない SIer の悪あがきです。それで業績予想を上回れるかというと、私は懐疑的です。

そんなわけで、合併しただけで国際競争力アップとかおめでたいトーク満載で話題の SCSK については、また次回。SCSK の合併の意味合いと、今後このような合従連衡の流れはムーブメントになるのか、きちんと整理をして見たいと思います。

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