なぜAdobeは映像系ソフトだけクロスアップグレード可にしたか

今回は、前回の記事「Adobe 製品を Windows と Mac でスイッチする方法」を違う角度から見てみます。

今回の CS5 へのアップグレードポリシーを見ていくと、Premiere をはじめとする映像系ソフトの扱いが特別であることが分かります。Creative Suite 5 アップグレードに関する注意点から引用すると、「Premiere Pro、After Effects、Soundbooth、Production Premium へのアップグレードに関しましては、異なるプラットフォーム (異なる言語は不可) へのアップグレードが可能です。」とあったり、「Adobe Premiere / Premiere Pro については、すべてのバージョンよりアップグレードいただけます。」とあります。

Adobe のマーケティング戦略

これらの特別ルールの目的は、Premiere ユーザの囲い込みを続けることだと推察できます。さらに、新規 Premiere ユーザの獲得も視野に入った施策でしょう。

Adobe はクリエイティブ系ソフトウェアでは市場では寡占的地位を築いてきており、2005 年の Macromedia 買収合併後はさらにその傾向が進み、グラフィック系については揺るぎない絶対的な地位にあるわけです。強力なライバル不在のため、のびのびとした価格設定と、平日の営業時間以外は顧客の相手をしないという強気の姿勢を崩しません。これがリーダー企業の競争戦略なのだと言われればそうなのかもしれませんが、ムカつきますね。

しかし、こと映像系に限ってはそうではありません。かつて Premiere は Final Cut Pro に敗北して Mac 市場から撤退していますし、映像編集系ソフトとしてのマインドシェアは低いです。プロユースでも需要はいまいちで、After Effects を除いて、Adobe の映像ソフトは微妙な立ち位置でしょう。

実際にシェアはどんなもんか

シェアが分かる資料が見つからなかったので、BCNランキングを参照してみます。いずれも 2010年6月のカテゴリ別ランキングです。

まずは、対照としてグラフィック系ソフトの販売ランキング。

順位販売元ソフトウェア
1セルシスIllustStudio パッケージ版
2セルシスComicStudioPro 4.0
3アドビAdobe Illustrator CS5 日本語版 Windows版 学生・教職員個人版
4アドビAdobe Illustrator CS5 日本語版 Windows版
5メガソフト3Dマイホームデザイナー LS3
6メガソフト3Dマイホームデザイナー LS3 間取りがわかる!書籍付
7アドビAdobe Creative Suite 5J Design Standard Mac 学生・教職員個人版
8アドビAdobe Illustrator CS5 日本語版 アップグレード版 Windows版
9アドビAdobe Illustrator CS5 日本語版 Macintosh版
10アドビAdobe Illustrator CS4 日本語版 Windows版

続いて、これまた対照として画像処理系ソフトのランキング。

順位販売元ソフトウェア
1アドビAdobe Photoshop Elements 8.0 日本語版 Windows版
2アドビAdobe Photoshop CS5 日本語版 アップグレード版 Windows版
3エプソンデジカメde!!ムービーシアター3
4アドビAdobe Photoshop Lightroom 3.0J アップグレード版 Win/Mac版
5アドビAdobe Photoshop Elements 8.0 日本語版 乗換え/UPG版 Windows版
6アドビAdobe Photoshop CS5 日本語版 アップグレード版 Macintosh版
7ジャストシステム感動かんたん!フォトムービー2 通常版
8アドビAdobe Photoshop CS5 Extended 日本語版 Win 学生・教職員個人版
9アドビAdobe Photoshop CS5 日本語版 Windows版
10アドビAdobe Photoshop Elements 8.0 日本語版 Win版 学生・教職員個人版

CS5 発表直後とは言え、両分野ともに Adobe のシェアの大きさがうかがえるランキング結果です。

一方、映像編集系ソフトではどうかというと、こんな感じです。

順位販売元ソフトウェア
1サイバーリンクPowerDirector8 Ultra 特別優待版
2コーレルVideoStudio Pro X3 特別優待版
3コーレルVideoStudio Pro X3
4コーレルVideoStudio Pro X3 アカデミック版
5コーレルVideoStudio Ultimate X3 通常版
6コーレルVideoStudio Pro X3 アップグレード版
7ペガシスTMPGEnc Authoring Works 4
8コーレルVideoStudio Ultimate X3 特別優待/アップグレード版
9アドビAdobe Premiere Elements 8.0 日本語版 Windows版
10コーレルVideoStudio Ultimate X3 アカデミック版

9位にギリギリ入っているといった感じです。CS5 発表直後だというのに、それらはトップ10には入ってきていません。まあ、そんなもんですね。


まとめ

Adobe としては、Premiere を再度 Mac 市場に投入したし、Win から Mac への乗り換えユーザが増えているという事実から、この市場のみチャレンジャーとしての戦略に切り替えたのだと思います。こうした背景を考えると、仮にシェア奪回が実現できた場合、この戦略は捨てられる可能性が高そうです。つまり、Premiere はじめ Adobe の映像系ソフトがシェアを伸ばしたとき、またクロスアップデートは認められなくなり、アップグレード対象製品も他製品と同様の縛りにしてしまうでしょう。製品ごとにポリシーが違うのは、内部の管理コストもかかるわけで、変えたがっているに違いないでしょう、と。

しかしながら上で見たようなシェア具合であり、こんな作戦で効果が上がるのかは不透明というか、ぶっちゃけシェアは落とさないけれども伸ばしもできずにハマるんじゃないかと推測しています。その場合は、再度市場から撤退するとか、クローズドでやっていくという流れに行き着くことも考えられるため、やはり今のアップグレードポリシーのままでいることは無いでしょう。

そんなわけで、映像系ソフトのクロスアップデートを考えている方は、今のうちですよ! Adobe 先生の気が変わらないうちに、ぜひ。

続きを読む "なぜAdobeは映像系ソフトだけクロスアップグレード可にしたか"

Adobe 製品を Windows と Mac でスイッチする方法

5月末に発売された Adobe CS5 に遅ればせながらアップグレードしました。今回のポイントは、Windows 版から Mac 版にクロスアップグレード(異なるOS間でのアップグレード)を実現したことです。

数年前から Mac の環境は手元にあるものの、なかなか Windows から移行することができなかった。理由は、高額な Adobe 製品群がすべて Windows 版であり、それらを Mac 版に交換することができなかったから。Adobe に救済を求めて聞いてみたことがあったけれども、「Mac版を新規に購入してください」というけんもほろろな回答しか得られず、結局 Windows 環境でクリエイティブを続けてきました。

こういう同士も少なくないと思いますが、朗報ですよ!

あまり知られていませんが、なんと CS5 ではクロスアップグレードができます。Adobe 製品を Windows 版から Mac 版に切り替えることができます。もちろん逆に Mac 版から Windows 版へのスイッチということもできます。

Adobe 製品は以前からアップグレードポリシーとして、クロスアップグレードを認めてきませんでした。これは CS5 でも同様なのですが、例外的に Premiere Pro、After Effects、Soundbooth、Production Premium へのアップグレードは、異なるプラットフォーム (異なる言語は不可) へのアップグレードが可能 になっています。今回はこの特例を利用するわけです。

このあたりの情報は Web 上に少ないので、一応、自分の例を書いておきますと、CS3 Design Premium Windows 版から、CS5 Production Premium Mac 版へのクロスアップグレードにしました。CS5 のインストール時に、現在利用中のプロダクトのシリアルを入力しろと求められますが、ちゃんと CS3 Windows 版のシリアルでパスできました。

映像系パッケージ群に限られる方法ではありますが、自分と同じようにグラフィックと映像という守備範囲の人ならドンピシャで使えます。

ほかに方法ないの?

あります。

カスタマーサービスに電話すると、何とかしてくれるかもしれないらしいです。上で、以前相談した際には新規購入を薦められた話を書きましたが、ちょっと態度は軟化しているのかもしれません。

ただ、先のパッケージを使ったクロスアップグレードと異なるのは、以前のシリアルを破棄する代わりに新しいプラットフォームでのライセンスを得ることができる点です。つまり、シリアルが破棄されると、やっぱ前のOSに戻りたい、というときの可逆性がない。ここはグレーゾーンなので棒読みしますが、普通にクロスアップグレードすると、Mac では CS5 が使えるし、Windows では以前のパッケージが使えるという状態になりますね。あら、ナニコレ不思議。

もっと、ほかに方法ないの?

あらためて CS5 のアップグレード対象製品を見てみると、そのなかに「Macromedia Studio 8」という文字があるのに気が付きました。私の記憶が確かならば、Studio 8 は Mac と Windows のハイブリッド版として販売されていた気がします。

つまり、Studio 8 さえ手元にあれば、好きな CS5 製品の Windows 版もしくは Mac 版にアップグレードできるということなんじゃないでしょうか。これ、すなわち最強。原理的にはできますよね、普通に。

結論、Macromedia 最高です。溜池山王時代が懐かしく恋しいです。


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