SCSK は業界再編のトリガーになるのか

10月1日、SI業界11位の住商情報システム(SCS)と8位のCSKが合併することで、業界4位となるSCSKが誕生することになっている。国内の今後のSIer動向を占う上では、今年最も大きなインパクトになるものではないでしょうか。

前回、「業績回復ストーリーを描けない SIer の悪あがき」というエントリで、震災需要の BCP と国際化としてのグローバル化という、非常に限定的な SIer の悪あがきを取り上げたわけですが、この SCSK というディールがまた不透明感たっぷり。「業界の明日を切り拓くリーディングカンパニーへの飛躍」になるのでしょうか。

経営統合のメリットは出るか

経営統合の理由は、その発表時に「IT業界が右肩上がりに成長しなくなった今、どうやって生き残っていくかを考えた結果だ」との発言が出ています。飽和した国内市場において一社が成長をこなすには、シェア率を向上させるほかありません。SIer にとってそれは顧客企業を増やすということであり、そのための近道は M&A でしょう。

SCSがそのソリューションを、CSKの既存顧客に売れるであれば、短期的な効果も期待できそうです。ただし両社でカニバっている領域も多く、そもそも元々SCSのソリューションが売れてなかったところに、そうそう簡単に入っていけるもんでもないのではないかと。そのため、顧客基盤の拡大という点でのメリットで言えば、一企業としての規模拡大によってプライムを取れる確率が高まるかもしれないところではないでしょうか。もしこれが真なれば、SI業界での合従連衡による再編が加速するでしょう。

経営統合によって規模の経済性が高まることから、ハード関連やクラウドサービスでのコスト効率・事業効率アップによるメリット享受も挙げられるかもしれません。サプライチェーンをいじるのも時間がかかりますし、クラウドなどは経営判断と実効性の間に乖離があって単純にメリットを得られるものでない可能性もあります。

ほかにも国際競争力が高まるという話がありましたが、SCSの希望としてはそうなんでしょうけれども、なぜCSKと経営統合するとグローバル化の推進が加速するのか、私にとっては不明です。海外展開でレバレッジ利くような企業だったっけ。

他業界の事例を引いてみる

国内市場が飽和してシェア率を高めるために経営統合を目指すというパターンは、家電業界や百貨店業界、ゲーム業界などにおいてすでに起こって一巡しています。

家電業界の場合は、サプライヤーに対する価格交渉力が値下げに直結し、売上高に跳ね返るモデルです。交渉は当然規模の大きい企業が有利です。つまり規模の経済性がはたらくため、家電業界は熾烈な M&A が繰り広げられてきました。

一方、百貨店業界はおもむきが異なります。高島屋以外の大手百貨店はいずれも統合を経験していますが、規模の経済性のために経営統合するというより、店舗やブランドを活かして効率的に利益を上げるために合併や提携が組まれているようです。例えば、伊勢丹の最先端のマーケティング力を老舗三越に適用するやり方がそうでしょう。

市場飽和後に合併などによって業界再編が進んでいくのは、他業界にも見られるパターンですが、その業界の事情によって再編の KSF は変わります。私は、SI業界では上記ふたつの観点が共に必要になるのではないかと思います。

SIerのバリュエーション指標は従業員数だという話もありますが、従業員数だけが売上の増減に寄与しているわけではありません。規模が増せば、競合優位性も増すというシンプルな世界ではありません。ましてグローバル化を戦うために、いま各企業に必要なのは、人数でないことは感覚的にも共有できるものではないでしょうか。

なんで SCS は CSK を選んだのか

SCS は過去にも住商グループ内でのIT部門を統合してきており、今回のような経営統合策が取りやすい体質であったということは言えると思いますが、ではなぜ CSK を選んだのでしょうか。

かつて KDD と DDI が合わさって KDDI になったように、名前が近い企業同士は引かれ合う性質でもあるんでしょうか、という話はさておき。

財務的に見ると、不良債権を抱えて自己資本がマイナスにあり財務状況が極めて悪い CSK を吸収合併することで、健全性がかなり高い SCS の財務体質は、大きく悪化します。合併発表後すぐに話題になりましたが、のれん代もハンパないです。(詳しくはみんかぶの記事を参照)

本業でない不動産事業の失敗で会社が傾いており、システム部門は健在とは言え、のれん代を償却しても上回るほどのパワーが CSK にあるでしょうか。単体での企業規模で言えば、確かに SCS よりも CSK の方が上ですが、あまりにリスキー。とても背景の政治経済的理由を知らなければ、理解できないディールだと思います。なぜでしょうか、脳裏に「子供に売春させる親」とか「政略結婚」とかいうキーワードが浮かびます。私、おかしくなってしまいました。

経営統合に関する説明会が延期されたまま開催されていないとか、株主総会が大紛糾するとか、ポジティブなディールに思えないのは、やはり私の頭がおかしくなってしまったからでしょうね。

まとめ

経緯はさておき、SCSKの誕生によって生まれるシナジーはゼロではないでしょう。それが投資対効果を上回ってSCSKの時代が訪れるかどうかは難しい問題だとしても、そのシナジーのアウトプットいかんでは、他 SI 企業が親やユーザーの枠を飛び越えて、合従連衡の動きに入っていく可能性もなきにしもあらずです。個人的には SCSK のディールの重さを横目に見て、領域を絞って業界横断で提携が進むとかいうのが現実ラインな気もしますが。

次の SIer 動向を見極めるために、親会社が住友金属との合併を模索している NSSOL の動きと合わせて、SCSK の経営統合の行方はウォッチしていく必要がありそうです。

業績回復ストーリーを描けない SIer の悪あがき

ここ数年来の SIer の冴えなさっぷりは異常です。

主要各社の決算も出て株主総会も終えたところで、今年も例によって低迷する SI 業界に一言もの申していきたいと思います。昨年は、「SIer が業績悪化しているのに何も変わらない」ということで、思考停止した SIer に言及しました。既存ソリューションをクラウドという新出用語でラッピングしたところで、売上拡大するわけないんですが、各社そろいもそろってクラウド押しだったのが悪印象でした。

直近決算を読み解く

上場大手 SIer 各社の直近の状況を見てみます。アレが入ってないとか、コレが入ってないとかいうのは無粋ですので、そこのところ、ひとつよろしくお願いします。

企業名 売上高 前年比 営業利益 前年比 来期予測 今年比
NTTデータ 1,161,962 101.7% 78,306 95.9% 1,200,000 103.3%
野村総合研究所 326,328 96.4% 38,426 95.9% 330,000 101.1%
伊藤忠テクノソリューションズ 283,068 97.5% 21,316 98.8% 280,000 98.9%
日本ユニシス 252,989 93.3% 6,527 91.9% 255,000 100.8%
CSKホールディングス 140,387 82.8% 7,005 167.7% 142,000 101.1%
住商情報システム 132,840 104.3% 7,076 110.2% 134,000 100.9%
新日鉄ソリューション 159,697 105.0% 11,076 102.7% 160,000 100.2%
富士ソフト 134,745 95.1% 3,793 115.2% 134,000 100.6%
日本システムディベロップメント 33,334 95.4% 3,582 84.3% 36,000 108.0%
SRAホールディングス 33,164 97.4% 2,238 112.1% 33,500 101.0%

2010年度決算に比べると、売上高や営業利益が伸長している企業がポロポロと見えるのが特徴です。トレンドとして、リーマンショック以後の不況については、前年度で底を打った感が出ているように見えます。ただ、FSI や SRA は実は前年度に営業利益率が半減していたりするので、そこから10ポイントちょっと改善したからといって、V字回復ということではありません。むしろ大きく伸ばしているところがなく、減収減益で着地している企業も多いため、依然として SI 業界全体に停滞感が漂っていると見るのが正しいでしょう。

昨年度下半期あたりから、ようやく企業の IT 投資意欲も復活してきたと言われていましたが、そこに来ての東日本大震災。実際に震災そのもので実害を受けたところは無く、各社ともに震災影響は不透明だがそこまで大きくないという見方をしているものの、プロジェクトの延期や案件の縮小などといった具体的な話もすでに聞こえており、各社読み切れていないというのが実情ではないかと推測しています。

ちなみに、増収増益を果たしている SCS と NSSOL については、親会社や楽天などのクライアントに恵まれたということもありますが、製造業での負けに対して、何とかプロジェクト生産性向上施策や販管費抑制で反発した結果であって、やはり市場環境がプラスに向いて利益確保できたということではないようです。この2社とも、11年度に継続して成長できるかは不透明です。NSSOL など、親会社の住友金属との統合案件がプロジェクト化されなかった場合、厳しい決算を迎える可能性があります。

SIer の悪あがき

そのような厳しい環境下にあって、一部すでに成長を諦めてしまっている SIer もいるものの、多くが業績予想として数パーセントの成長を見込んでいます。

データのように「前年度の目標と変わってねーじゃねーか」とか、「そんなのマシで NSD や SRA なんかは前年度の業績予測のだいぶ下を来期予想に置いていて、ついに現実を悟ってしまったか」とかいう話があるものの、今期決算より上向けるために各社尽力していくということは変わりません。

では、どうやって業績を回復させるというのでしょう。

個社別に多少の色の違いはありますが、前年度から継続されるクラウドや IFRS 関連での売上拡大とコスト削減施策に加えて、「BCP」と「グローバル化」が今年度のキーワードとして強調されたように感じられました。

既存のソリューションを、震災を機にリパッケージして需要喚起する SIer 根性には、惚れ惚れします。今回の件はさすがに、各社とも現実問題として考えねばならないことだけに、実際その提案に乗ってしまうところが少なくなかったのでしょう。DR対策や防災需要、グリーンIT、スマートグリッドなど、震災や原発に関連したサービス提供で、震災で低下したIT投資分も挽回可能というのが SIer の見方になっています。

国内 SI 市場の飽和に対して、不採算プロジェクトを減らすことで、なんとか利益を出し続けようという、後ろ向きな努力に比べると、震災に端を発する需要へのサービス供給というのは筋が良いように見えます。個人的には、震災による需要増加でカバーできる投資減少分は限定的だと思っているので、これで伸びるとは思えませんが。まあ、悪あがきだと思います。

業績回復の鍵を握るのは、グローバル化になるでしょう。

SIer はグローバル化するのか?

SIer が自らソリューションを創造して国内の新規マーケットを開拓できない以上、彼らが海外指向を持つのは当然の流れです。国内市場の飽和と、親会社やクライアント企業の海外進出という2つの理由から、国外で悪あがきをできないか模索するわけです。

しかしながら、現状で私が見ている限り SIer のグローバル化というのは、次の2点を指しているようです。

・親会社の海外進出に係るシステム構築
・クライアント日系企業の現地子会社へのシステム適応

グローバル化というと新興国の現地企業向けのソリューションを、ローカライズしながら提供したりすることかと思いきや、そういうのはインドや中国とのコスト競争に適わないので、既存のクライアントソースを最大限に活躍していくということをもって、グローバル化と言っているようです。アホか。取引は国際化しているけれども、それはグローバル化とは言わないでしょう。

これまで国内で蓄積してきた高度なノウハウを、新興国マーケットに適するようにアジャストさせて、ひとつひとつソリューションを組み上げていけるかどうか。新興国とのコスト競争に巻き込まれず、真に日本の SIer がグローバル化するためには、このような視点が欠かせないでしょう。

結局、言いたかったこと

SIer がソリューション創造企業として本質的に変化しない限り、国内だろうが海外だろうが、長期的な業績回復を遂げることは難しいのではないでしょうか。自社の強みを活かしつつ、各国・各地域に横たわる課題を解決することのできるラインを構築しなければならないのではないでしょうか。

事業継続性や単なる国際化としてのグローバル化というのは、そのような視点を持てず長期の業績回復ストーリーを描けない SIer の悪あがきです。それで業績予想を上回れるかというと、私は懐疑的です。

そんなわけで、合併しただけで国際競争力アップとかおめでたいトーク満載で話題の SCSK については、また次回。SCSK の合併の意味合いと、今後このような合従連衡の流れはムーブメントになるのか、きちんと整理をして見たいと思います。


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